「私と、一緒に行こう?」

 なのはが笑顔とともにつぶやく。

「ずっと、ずっと、一緒にいてください」

 フェイトが恥ずかしそうにはにかむ。

「私の家族に、なってください」

 はやてがほほ笑みながら誘う。

「あたしがあんたを選んだのよ! 文句ある!?」

 アリサが照れを隠そうともせずに叫ぶ。

「私は、あなたが好きです」

 すずかがストレートに告白する。

「「「「「………」」」」」

 そして沈黙。

「……いや、なのは。あんたいったいどこに行きたいのよ」
「そういうアリサちゃんだって、そんなに高圧的じゃ……」
「フェイトちゃんのそれ、遠まわしすぎひんか?」
「そうだよね。それじゃ伝わらない気がするよ」
「で、でも、はやてやすずかみたいに、そんな、はっきりとはいえないよぅ……」

 次に顔を突き合わせて相談を始める五人の少女たちを遠巻きにしながら、翠屋のバイト店員である恭也は恋人である忍のほうを向く。

「………なあ。あいつらは翠屋の片隅で一体何の話をしてるんだ?」
「え? ああ、あれ?」

 コーヒーの具合を確かめる忍は、少女たちのほうを微笑ましそうに見ながら恭也にウィンクして見せた。

「恋する乙女の作戦会議、ってやつ?」
「はあ………」










少女たちと朴念仁?









「っていうか、どうしてあたしたちがこんな、お互いに告白するみたいなことになってるのよ……」

 話し合いを続けてしばらく。ぐったりと疲れたようなアリサがつぶやく。
「それはー……ねぇ?」

 それを受けて、はやては返答に窮したのか隣に座っていたすずかに振った。
 すずかは黙って笑顔になり、そのままフェイトのほうを向く。

「え、ええぇっ!?」

 いきなり顔を見られてあわてたフェイトは、右左と何かを確認するように振り向き、結局何も言うことができずに涙目で隣に座っている親友のほうを向いた。

「えーっと」

 そんな目で親友に見つめられたなのはは、さすがにそれを無視することができずに、頬を掻いてここに集まった理由を口にした。

「ユーノくんに振り向いてもらうための作戦会議……?」
「それよ」

 ビシッ、と音がつきそうなしぐさでアリサがなのはを指さす。

「そもそもよ? ここにいる全員はユーノに惚れている。そこはいいわね?」

 アリサが確認するようにテーブルに座っているメンツの顔をぐるりと見回すと、四者四様にうなずきが返ってくる。
 そう。何の因果か、ここにいる五人の少女たちは、たった一人の少年を取り合う恋敵たちなのだ。
 少女たちが少年を好きになった経過は、それだけで一つのお話が完成したりそれこそ本当に些細なことが理由だったりするのでここでは割愛させていただこう。
 まあそんなわけで、少女たちはいわゆる恋の鞘当(本来の用法とはいささか異なるものの)を演じあう仲というわけだ。
 それなのに。どうして一堂に会し、なおかつその少年―――ユーノの気を引くための話し合いなどしているのだろうか?

「あたしたちは、はっきり言って美少女よ」
「そ、そんな大袈裟じゃ……」
「黙りなさい、帰国子女美少女。ぶっちゃけ学校じゃあんたが一番人気なんだからね」
「あう……」

 アリサに睨まれたフェイトは、その一言に顔を赤くして俯いた。
 彼女の足元にある鞄には、捨てるに捨てられなかった大量の手紙ラブレターがはみ出していた。

「自分の戦力を確認して、対象にぶつかっていくのは大切なことよ。それに準じれば、あたしたちは容姿に自信を持っていいレベル。なおかつ、それぞれに輝く個性というものがあるわ」

 演説かなにかのように身振り手振りを加えながら話すアリサ。
 傍聴者たる少女たちは、そんな彼女の言葉にのめりこむように聞き入っている。

「なのに……」

 と、アリサのセリフがトーンダウンし、さらに前髪で視線が隠れる。
 あ、これはまずいな、と他の四人が思った瞬間。

「なのに! ぬぅあんで、あのフェレットはあたしらの誰にもなびかないのよぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!」

 火山噴火。勢いに任せてテーブルをひっくり返すアリサ。
 小学校最後の学年であるとはいえ、まだまだ少女の範疇にはいるはずなのに、十キロ近い木製のテーブルが宙に舞うとは何事だろうか。
 寸前のところで何人かがテーブルの上に載せられたデザートやドリンクを退避させたため、それ以上の被害はなかったのが幸いだろう。

「ぜぇー……ぜぇー……!」
「アリサちゃん、落ち着こうよ」
「せやせや。ストレスは体に悪いで」

 鼻息も荒いアリサをなだめるのは、両手にドリンクをもったはやてとすずか。受け狙いなのか、はやての頭部にはケーキが乗せられている。

「そうだよ、アリサちゃん」
「で、でも、アリサのいうことにも一理あるよ……?」

 無言で恭也が元に戻したテーブルの上に退避させていた品を戻すなのはに、普段はどんくさいせいか何一つ退避させられなかったフェイトが進言する。
 その言葉に、その場にいた全員が暗く影を落とした。

「うん……まあ、そうなんだけどね……」

 なのはがはははと空笑いする。
 おそらくユーノに一番近しい立ち位置にいられるのが彼女だ。
 こちらに滞在する際の住居として提供されるのも、フェレット形態であるとはいえ高町家であることが圧倒的に多い。
 しかしそこまでだ。それ以上の発展がなぜか望めない。

「わ、私だってがんばってるけど、本当にユーノって………」

 言っている途中でむなしくなったのか、フェイトの声がしりすぼみになる。
 仕事の関係で一番会う機会があるのは、たぶんフェイトだ。
 兄がよく資料請求するし、執務官試験では過去の法例などをよく貸し出してもらっている。
 その時の精いっぱいのアプローチも、プロサッカー選手並のスルーでかわされてしまうのだ。

「こうなると、本気で色仕掛けとかするしかないんかなぁ………」

 とても小学生とは思えないような発言をかますのははやてである。
 彼女の場合、新たな祝福の風、リインフォースUの作成に際して急接近を図ることに成功した。
 それ以降、割とずぼらな彼を食卓に引き込む段階にまでこぎつけることができた。
 まあ、だからなんだと言われてしまう状況なのであるが。

「色仕掛け、かぁ」

 五人の中で一番発育のよろしい胸部をムニムニと弄るすずか。
 読書が好きという、プライベート的な部分でユーノとの意思疎通の図ることのできる彼女。
 管理局に保管されている珍しい本などをちょくちょく貸してもらったりして、定期的に会うことができている。
 何か足りないといわれてしまうと、やっぱりそういう方面なのだろうか。

「やめときなさい。最悪の場合、紳士的にスルーされるだけよ」

 厳しい眼差しではやての意見を却下したアリサ。
 五人娘において最も不利な状況にある彼女だが、かつてお風呂を一緒に共にした一件を理由に、ご奉仕という名のデートをたまに敢行している。
 彼がいい人であるのと、罪悪感を利用した悪手ではあるが、自分に取れる方法はこれだけだと開き直っている。
 少なくとも一緒にいる時に彼がビクつかなくなっただけでも大進歩だろう。

「なんなんだろうね。ひょっとしたら、私たちユーノくんの好みじゃないのかなぁ」

 ちょっぴり悲しそうな発言が、なのはの口から飛び出す。

「好みが違うなら、こっちに合うように変えてやるだけよ!」

 ドンとテーブルを叩いくアリサに、フェイトが控えめに意見する。

「で、でも無理はよくないと思うな……」
「いや、無理やのうて、それこそ私らがやらなあかんことと違うかなぁ」

 真剣な表情でつぶやくはやて。そんな彼女に同意するのはすずかだ。

「確かにね。好きになってもらうっていうことは、そういうことなのかもしれないしね」
「そうね」

 ふん、と鼻息も荒くアリサが腕を組んだ。

 チリンチリーン。

「お。ユーノくんいらっしゃーい」

 と、話し合いが終わるのを見計らったようなタイミングで、五人の想い人が翠屋にやってきた。

「………さて。今日は月に一度のみんなでお出かけの日よ」
「だから私たち、話し合いなんてしてたんだよね」
「結局実りはあらへんかってんけど……」
「でも、お互いの意識の再確認くらいにはなったかな?」
「う、うん。そうだね」

 ユーノに聞こえないようにこそこそつぶやく。
 だんだん近づいてくる足音を聞き、アリサが最後に全員に宣言した。

「いいわね、あんたたち。抜け駆けはなしよ?」

 四人はそろってうなずくことで、乙女同盟の結束を確認した。





「それじゃあ、またね、ユーノくん」
「バイバイ、ユーノ」
「ほしたらまたなー」
「それじゃあね、ユーノくん」
「またね」
「うん、また今度」

 それぞれの家に帰っていく少女たちの背中を見つめながら、ユーノは桜台の丘の上で考える。
 彼は個人での長距離転送が可能な人間。こちらに来る際は、トランスポーターを介さずに自分で来るようにしているのだ。
 そうしなければ、きっと不公平だから。

「にしても、いい加減答えださないとなぁ………」

 ごろりと夕焼け空を眺めるように横になりながら、ユーノは一人でつぶやいた。

「みんなにも、失礼だしね」

 五人の少女たちのことを考えながら、ユーノは今日一日のことを思い返す。
 五人で一緒に遊びに行くと、いつも大変なことになる。
 みんながみんな一生懸命にユーノの気を引こうとするため、たいてい小さなトラブルが多発するのだ。

「今日はアリサが大変だったなぁ……」

 今日の被害者のことを思い浮かべ、そして痛みの引かない頬をなでる。
 何があったのかは、ご想像にお任せしよう。

「みんなには、ずいぶんとやきもきしてもらっちゃってるよなぁ……」

 ユーノはつぶやく。
 実のところ、ユーノは五人の少女たちが一様に自分を想ってくれているのに気が付いていた。
 なにしろ、自分がそうだったから。
 ポケットの中にいつも忍ばせているロケットを取り出し、中におさめられている写真を見つめる。
 そこに納まっているのは、四年生になったばかりの時のお花見の時にこっそり手に入れた、一人の少女の写真。

「だめだよね、このままじゃ……」

 少女のことを想い、友達のことを思い、ユーノは独白する。
 この三年間、ずるずると少女たちの好意に答えずにきたのは、やはり今の関係を崩したくないというのが大きかった
 部族の仲間でもなく、仕事の相手でもなく、初めてできた友達。
 その関係を壊してしまうのが、たまらなく恐ろしかったのだ。
 だが、やっぱりこのままではいけないだろう。
 先に進むことを恐れているだけでは、きっとなにもつかむことはできない。

「………うん。よし」

 ユーノは何かを決意するように呟いて、そのままの姿勢で転送魔法を起動させた。

「せっかくだから、今まで貯めてたお給料全部使っちゃおう。それで―――」

 自ら改めて決めたことを口にしながら、少年の姿が地球から消える。
 その最後の表情は、どこか晴れ晴れとしていた。





 そして、一ヶ月後。
 少年の出した答えに、少女たちがなんと言ったのか。
 それは、あなたの胸の中に―――。










―あとがき―
 というわけで、50000hitリク「少女たちと朴念仁?」をお送りいたしましたー。
 ……にしても、俺ってこんなにハーレム系統書くの苦手だったっけか……?
 落とし所がようわからんと、こんな形になってしまた。
 リクエストしてくださった方にとって望まれた結果……ではないと思いますが、すいません。これが俺の今の限界です。
 きっともっとラブラブしてるのを見たいと思うんだよなー。でもその光景が! その光景が! 出てこないんですよ!orz
 そこまで引き出しがなくなっていたか、俺の脳みそ……。
 それでは、リクエストしてくださった方、お待たせして申し訳ありませんでしたー。




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