時空管理局本局は、非常に広大な敷地面積を誇る。
 いや……この言い方は適切ではないだろう。本局は次元空間に浮遊する巨大な構造物の内部空間に存在するのだから。より正確には広大な内部空間を誇る、か。
 ともあれ、時空管理局本局は広大である。何しろ街ひとつ有しているわけだから。
 時空管理局本部はもちろん、武装隊の演習の為の広大な訓練場や、スーパーマーケット、はては娯楽施設や無限書庫といった図書館(?)まで存在する。
 そんな広大な本局には、当然居住区と呼べるような場所も存在しており。

「…………」

 そのうちの一つ、独身男性局員御用達の個人寮の一角に、ユーノ・スクライアという少年が住んでいた。
 彼は局員待遇の民間協力者で、現在は無限書庫の司書をしながら考古学の研究を行っている。
 こういった民間人も自らの敷地内で養える辺り、時空管理局の懐の広さというのは侮りがたいものがある。
 閑話休題。
 そんな民間協力者の一人であるユーノは、三日ぶりほどに徹夜から解放されて自分にあてがわれた寮にて、お湯が沸くのを待っていた。
 なにをするでもなく、コンロにかけられたヤカンのお湯が沸くのをじっと待っている。
 コンロの目の前で。微動だにせずじっと。

「…………」

 十代前半に指しかかろうかという少年が、亡羊とした眼差しでじっとヤカンが沸くのを待っている光景は、実にシュール極まりない。

 ピーッ!

 ヤカンのお湯が沸いたようだ。ユーノの体が動く。
 ヤカンの取っ手を持ち、そのままリビングにある小さなテーブルへと向かう。
 そこにぽつんとおいてあるのは、小さなカップ麺。
 余談ではあるが、この手の簡易調理食品はある程度文明の発展した次元世界ではよく見られるが、味に関しては管理外世界地球が群を抜いているといえる。あの世界は、本当に自らの欲求を満たすことに長けているといえよう。これだけ科学が発展した時空管理局でも、「食欲を満たす為のもの」の域を出ないカップ麺を見るたびにそう思う。

「…………」

 ゴボゴボゴボー、と湯気を立ち上らせながら、ヤカンのお湯がカップ麺の中を満たしていく。
 ちなみにこのカップ麺は、管理局御用達のスーパーにて買ったものなので、味は残念な仕様だ。
 お湯がカップの内側の線まで登ってきたところで、ヤカンをそばにあった古雑誌の上に乗せる。一面記事を飾っている女優が物言い多げな視線を送ってくるが、それを無視してカップ麺のふたをし、さらに重石として小さな時計をその上に載せる。

「…………」

 そして待つこと三分。そろそろいい頃合だろう、と時計をのけて、カップ麺を買ったときについてきたフォークをふたをはがしたカップ麺の中に突っ込む。
 丁度言い感じにふやけた麺の感触と、立ち上る湯気の香りが食欲を誘う。
 知らず知らずの内に頬が緩むが、ユーノはそれに気が付かない。
 フォークに麺を絡めとり、ゆっくりと持ち上げ。

「それじゃあ……いただきまーす」

 誰に言うでも無しに、カップ麺を口の中へと運ぶ。

「ユーノ」

 ずるずると音を立てて啜ろうとしたまさに瞬間、ほとんど不意打ちのようなタイミングで背後から聞きなれた少女の声が聞こえてきた。

「ブ、グホッ!?」

 啜りかけた麺が、気管支に侵入して悶え苦しむユーノ。

「………またカップ麺食べてる」

 そんな彼の様子もお構い無しに、いきなり侵入してきた少女はユーノの食べているものを見て、ふかーいふかーい井戸のそこから聞こえてくるような低い声を出した。

「いつもこんなので済ませないでって言ってるよね……?」
「ちょ、ぐふっ、フェイト!?」

 未だに熱い麺の攻撃に苦しむユーノが顔を上げると、そこには半目でこちらを睨む麗しの執務官候補生、フェイト・T・ハラオウンの姿が。
 彼女の右手には、全然食べていないカップ麺が。

「この調子じゃ、お風呂場も………」
「って、ちょ、カップ麺は置いていってよ!?」

 カップ麺を右手に持ったまま、フェイトは備え付けのバスユニットに向かう。
 ユーノは慌てて彼女の後を追うが、彼女は自慢のスピードでバスユニットの扉を開ける。
 その中からこんにちわするのは、うずたかく積み上げられた洗濯物。

「…………」

 雪崩のように足元に溜まる洗濯物を見て、フェイトの額に青筋が出現する。
 ユーノはそんな彼女の背中を見つめて脂汗を流す羽目になる。

「いや、あの、フェイト、さん……?」

 ご機嫌を伺うような彼の態度を無視して、フェイトは彼の部屋の壁を覆い尽くすような本棚の一つに近づいていく。
 そしてその棚の一角を、良くドラマとかで見るようなお姑さんの動作で指を擦る。
 指先に付着しますは、大量の黒い埃。

「………ユーノ」
「はい………」

 フッ、と指先の埃を吹き飛ばすフェイト。今の彼女は事件に向き合うリンディに勝るとも劣らない威圧感がある。
 ユーノは頭を垂れて彼女の第二言を待った。

「どうしてこんなことになってるのかな?」
「三日ほど徹夜をしていました………」
「ふぅん。私知らなかったなぁ」
「いや、そのときはフェイト、執務官補佐として仕事が」
「知らなかったなぁ?」
「………すいません、連絡忘れてました」
「いつも言ってるよね? 徹夜するときは、私かアルフに連絡してね、って」
「いや、でも、本当に僕のことにかまってもらうの悪いし」
「言ってるよね?」
「…………………はい」

 頭を垂れ続けるユーノに、いっそ神々しいまでの笑顔を向け続けるフェイト。
 額に青筋さえなければ、きっと誰もが見とれることだろう。
 右手に握るカップ麺にだって、不自然な力が加わっている。今にも内蔵噴出して御臨終召されそうだ。

「どうしてこんな簡単なことが出来ないのかなぁ? 洗濯物だって、明らかに徹夜前から溜めてるよね?」
「う!? いや、そのときは書きかけの論文が出来上がってなくて!?」
「そう? なら他の司書の人に聞いてみようか。そういえば、最近連絡してないなぁ」
「ちょ、ごめんなさいすいません、めんどくさくて放置してました!」

 通信用コンソールに手を伸ばすフェイトに縋りつくようにして推しとどめるユーノ。
 見た感じ、別れ話を切り出されて何とか彼女を思いとどまらせようとしている情けない男の図に見えなくもない。

「………まったくもう」

 一通り嫌味を言ってすっきりしたのか、フェイトは般若の笑顔をやめて、呆れたような表情で瀕死のカップ麺をすぐそばの仕事用のデスクの上に置いた。

「本当に駄目なんだね、ユーノ。こんな簡単なことも出来ないなんて」
「うぅ………」
「とにかく、そこにいて。すぐに簡単な料理作るから」
「いや、それよりそこのカップ麺食べさせて……」
「駄目! こんな食べ物、栄養が偏っててすぐに身体を壊すって、リニス言ってたんだから! お惣菜くらいなら簡単に出来るから、それまでお預け!」

 フェイトはユーノにそう言明して、カップ麺を持ち上げて簡易コンロへと向かう。
 このまま置いておいたら確実に彼はこれを食べるだろう。その前に、カップ麺の中身を流しの隅の三角コーナーへとぶちまける。
 「ああ……」とユーノの残念そうな声が背後から聞こえてくるが、気にせず冷蔵庫を開ける。
 中にある食材は、生鮮食品がかなりギリギリな感じになっていた。
 ………ひょっとして、一週間近く中身に触れていないのだろうか。

「むぅ………」

 その一件に関しても追求したい所だが、まずは彼に料理を作るのが先だ。
 いくつかの食材を取り出し、切り分け始める。
 ユーノはそんなフェイトの背中をいささか恨めしそうな視線で見つめる。カップ麺の恨みはそれなりに深いようだ。
 ………さて。何故この二人がこんな関係になっているのかと言えば、ざっと三ヶ月ほど前の話になる。
 もうすぐ執務官試験に向けて、本格的な勉強を始めようと考えたフェイトが、まず学のありそうなユーノを頼ったのが始まりだ―――。





 執務官試験に関する勉強をユーノに相談したら、割と簡単に引き受けてもらえた。
 魔法関係に関しては力になれないが、法務の基礎に関してなら請け負えると言ってくれたのだ。
 さすがユーノ。勉学、という方面においては仲間内で一番頼りになる存在だ。国語の勉強も凄くお世話になったし。

「お邪魔しまーす」

 そんなわけで、早速ユーノの時間が空いている時に彼の寮へと勉強を見てもらいにいったのだが。

「………なにこれ」

 思わず眉をひそめてしまったのは、玄関から見える廊下の惨状。
 ゴミ袋が三つも四つも積み重なっているのだ。
 さすがに最低限の足の置き場くらいはあるが、一般的にゴミはこんな所に溜め込んだりはしない。

「ユーノー………?」

 訝しげな表情のまま、フェイトはゴミの間を進んでいく。
 さすがに壁まで積みあがっている、ということはないが、それでも足の踏み場が限定されてしまっているくらいにはゴミがある。
 管理局の男性寮は、基本的に1LDKである。そのため決して広くはないが、逆に言うと狭くもない。それをここまでゴミを溜めることが出来るなど、ほとんどゴミを捨てたことでもなければありえない。
 と、フェイトがふと扉の開いていた洗面場のほうを覗き込んでみる。

「うっ……」

 そこにあったのはこんもりと積みあがった洗濯物の山。下着や上着、あるいはズボンなどが無節操に積み上げられていた。

「ひどい……」

 フェイトは思わずユーノが穿いていたらしきトランクスを摘み上げる。
 普通、異性の友達の家に来て下着を発見するなど、漫画的には恥ずかしがるイベントであるはずなのに、今のフェイトは羞恥心を感じる心の余裕がなくなっていた。
 というか、ここまで堂々と山と積み上げられてしまうと恥ずかしく思うのもなんかバカらしい。

「…………」

 いよいよもって不機嫌さを隠しもしなくなってきたフェイトは、この部屋の主の姿を捜す。
 ぱっと見た感じユーノの姿はない。ということは、寝室と思しき奥の部屋だろう。
 もはやゴミを蹴散らす勢いで足を進めるフェイト。
 そしてユーノがいるはずの部屋の前に立ち、勢い良くその扉をあけた。

「ちょっとユー、ノォォォォ!!??」

 そして怒声一発、後半が悲鳴に変わった。
 何しろユーノの体が上半身半分本の山に埋もれていたのだから。
 なんだったか。以前なのはの家で見た「イヌガミケ」という映画にこんな一シーンがあった気がする。

「ちょ、ちょっと何してるの!?」

 慌てて持ってきていた勉強道具をテーブルの上に置き、ユーノの足を持って本の山から引っこ抜く。
 どうも本の角に頭ぶつけて気絶しているらしいユーノは、グルグルと目を回していた。

「ちょっと、しっかりしてユーノ!」
「ブ、ブッ!?」

 友人危篤の気配に、フェイトは有無言わさぬ平手打ちを敢行。
 頬を張らしたユーノは、目の前にあるフェイトの顔を見て、ようやく覚醒した。

「……………あ、ふぇいと? もう来ちゃったの?」
「もう来ちゃったって……。いや、それよりこれはどういうことなの?」

 なんだかまだ寝ぼけているようなユーノの様子に、フェイトは眉を怒らせながら周りのゴミやら洗濯物の山やら崩れた本やらを指差す。
 そんな彼女の様子にユーノは恥ずかしそうに頬を描き、視線をはずしながらハハハと空笑い。

「いや、ちょっと溜め込んじゃってね。仕事も溜め込んでたし………」
「ウソ。だって、こんなゴミ、一ヶ月かそこらじゃ溜まらないでしょう?」

 逃げるようなユーノの視線を追いかけるフェイト。
 確かに今の無限書庫は多忙を極める。ようやくまともに機能し始めたばかりだからだ。
 だが、それでも一週間続けて徹夜とかそんな惨状はめったにない。
 利用者がそう大勢いないということもあるが、徹夜してまでする仕事がほとんどないからだ。
 そのため、司書は定時で上がることの出来る簡単な仕事だと、クロノが前に皮肉を言っていたのを聞いたことがある。
 いくらなんでも、一週間に一度でも掃除をすればこんなことにはならないだろう。

「……………ほら、ゴミ出しの決まりとか。ちゃんと出せる日にかち合う事がなくて、いつの間にかこんな」
「それもウソ。管理局はほぼ毎日ゴミの回収を行ってるって、母さん言ってたもん」

 管理局本局は、人の生活する街だ。ならばその清潔さをためつ為の仕事も当然存在する。
 そんな人々の努力のおかげで、管理局のゴミ処理はほぼオールシーズンで機能している。可燃ごみだろうと、不燃ごみだろうと、粗大ごみだろうと、あるいは再利用資源だろうと仕分けさえキチンとなされていれば、いつ出したって問題ないのだ。
 なのになんで溜まるのか? いや、そもそも洗濯物のような日常品の洗物が溜まっていながら、台所周りが異様に綺麗であると言う現状。

「ユーノ?」

 なおも逃げようとするユーノの顔を両手で挟んで固定し、じっとその瞳を覗き込む。
 往生際の悪い犯人は、なおも目を逸らそうとする。

「いや、ほら、スクライアの戒律」
「こんな汚い戒律あるわけないでしょ。ユーノ、まさかとは思うけど」

 フェイトは息を吸って、吐いて、心を落ち着けてから質問する。

「掃除とか洗濯……サボってるの?」
「……………………まさか、そんな」
「私の目を見よう、ユーノ。その上、食事は外食とかマーケットのインスタント食品だね」
「どこにそんな証拠が」
「このゴミ袋」

 なおも言い逃れしようとするユーノに、現実という名のゴミを見せ付ける。
 その中に入っていたのは、マーケットの惣菜弁当のトレーとかカップ麺のカップとか。
 どう考えても言い逃れできない証拠物件だった。

「…………」
「…………」

 痛いほどの沈黙が、ユーノの部屋の中に満ちる。

「……………………いや、その、ごめんなさい」

 沈黙に耐えかねたのか、ユーノが視線をそらしながら謝罪する。

「それはなんに対する謝罪なの?」
「いや、こんな風になる前に掃除しておくべきだったんだけど」
「それは反省の、ひいては生活態度を改善する意思があるってことだね?」
「え?」

 ユーノが視線を戻すと、そこにあったのは極上の笑みを浮かべるフェイトの姿。
 ただし額には幾本もの青筋が。しかもいつの間にか手はユーノの襟首をギリギリと締め上げてるし。

「あの、フェイトさん?」
「じゃあ、早速はじめようか? まずは掃除その他から。次は備え付けの冷蔵庫の中の確認。まさか炭酸水とか、おつまみとかしか入ってないわけじゃないよね?」
「いや、はじめるって」
「ないよね?」
「……………」

 凍てつく威圧感の中、ユーノはごくりとつばを飲み込み、そういえばクロノがこんなこといってたなぁ、と思い出す。

――フェイト。あの子な、どうも綺麗好きらしいんだよな――





 そして丸三日かけて部屋を掃除しきり、冷蔵庫の中身が炭酸水とお菓子だけの現状にフェイトが大魔神化したりもし。
 ユーノが私生活では極端にズボラであるということに気が付いたフェイトは、毎週一回は必ずユーノの寮に顔を出すようになった。
 当然、掃除や洗濯をきちんとしているかどうかの確認の為だ。
 それだけでなく、家にいるときはマーケットの惣菜ではなく、自分の料理を食べているかどうかの確認でもある。
 管理局に皆が勤めだして一年以上たつ。
 その間に給付されているお給金は、なのはやフェイトにとってはほとんど無用の長物なのだが、ユーノの場合はそのほとんどが新しい衣服やお惣菜の類に消えているのだ。
 曰く「服が新しいなら洗う必要はないし、料理するのもめんどくさい」とのこと。
 完全に駄目人間のセリフである。
 そのため、ユーノに人間らしい生活を送ってもらうために、こうしてフェイトが発奮しているというわけである。

「というか、スクライア一族でもこんな感じだったの?」
「いや、向こうじゃ掃除も洗濯も料理も、みんな仕事だったからねー」

 賞味期限間近の食材にてできた料理を前にしながら、ユーノはフェイトの質問に答える。

「それがこっちじゃ、別にやらなくても代わりがあるからさ。どうしてもそっちに走っちゃうんだ」
「その理論おかしいよ、ユーノ」

 湯気を立てる料理を前に手をするユーノを、フェイトは半目のままで睨みつける。
 彼の生活改善のために従事し始めてそろそろ三ヶ月くらいになるが、ほとんど効果は見られない。結果、フェイトやアルフが世話を焼いてやっている形になっているのだ。

「………とにかく、これ食べて。そしたら、洗濯だからね?」
「うん、わかってる」

 苦笑しながら料理を口に運び始めるユーノ。
 そんな彼を見ながら、フェイトはこっそりため息をついた。

(……もう)

 このため息は、目の前の彼に為のものではない。
 自分自身に対するものだ。
 こうして、彼の世話を焼いてしまっている自分に対するものだ。
 本来なら、こうして彼の世話を焼いてやる必要まではない。普通に注意を促して、それで時折現状を尋ねる。しつこくこれを繰り返すだけでも、それなりに彼の生活態度は改まるだろう。元々、真面目な性分の持ち主だ。
 なのに、こうして世話を焼いてしまっている。

(駄目だなぁ、私………)

 ユーノの生活がキチンと整うことを願う一方で、いつまでもこのままでいて欲しいという思いも同居する。
 そうすれば、ずっと彼のそばにいられるから。
 こうして、彼に自分の料理を食べさせて上げられるから。

(……気付いてる? ユーノ)

 三ヶ月前に比べたら、自分の料理が格段に上手になっていることに。
 それもこれも、ユーノに食べさせる為。ユーノにおいしいものを食べてもらう為。

(……気が付いてくれる? ユーノ)

 この胸のうちに眠る、淡い想いの正体に。
 いつか気がついてくれるだろうか。
 ………あるいは、もう気が付いていてくれるのかもしれない。

「おいしい? ユーノ」

 なぜか、そう思うことが時折ある。
 なぜかは、わからない。

「うん、おいしいよ」

 ………ひょっとしたら、そういうものなのかもしれない。
 彼の笑顔を見るたびに、フェイトはそう想う。



「本当に?」

 質問に正直に答えたら、彼女は疑わしげな眼差しを向けてきた。

「本当だって」

 この三ヶ月で格段に上達した彼女の料理を口に運びながら、ユーノは答えた。
 ………フェイトには、悪いことをしているな、という自覚は一応ある。
 本当なら友人達と過ごしているだろう、休日の一時をこうして浪費させてしまっているのだから。

「本当〜?」
「疑り深いなぁ」

 だが、こうしてかまってもらえることが、すごく嬉しい。
 部族を離れて一人過ごすこの土地で、仕事以外で人と触れ合う数少ない機会だ。
 友人達は全員管理外世界に過ごしている。仕事で会える機会もほとんどない。
 そんな中で、彼女だけは自ら会いに来てくれる。自堕落な生活を、自分が過ごしてしまっているから。
 ………だから、この生活をやめることが出来ない。彼女の“理由”を奪ってしまうことになるから。

「だって、ユーノ。私が出した料理全部“おいしい”っていって食べちゃうんだもん。当てにならないよ」

 いや。本当なら彼女をつなぎとめられる“かもしれない”方法はある。たった一言でいい。この胸のうちにある想いを彼女に晒してしまえばいい。

「そうだったっけ?」
「そうだよ」

 だが、そうすることで今のこの関係を壊してしまう恐れもある。
 それが、怖い。
 とてつもなく、恐ろしい。

「……でも、しょうがないじゃないか」

 しかし、そんな必要もないのではないかと、頭の片隅で時折自惚れる。
 それは、こんな会話がたびたび行われてしまうせいだろう。

「フェイトの作る料理は、いつでもおいしいんだから」
「………もう」

 ユーノの言葉に、フェイトが笑う。
 眉尻を下げた、困ったような笑顔で。
 そんな彼女の顔を見るたびに、ユーノは自惚れてしまう。

――きっと彼女と自分は、言葉にしなくても想いが繋がっているんだろう――と………。

「お世辞言ってる暇があったら、きちんとしてよね? そのうち洗濯物からきのこが生えちゃうよ?」
「それは怖いなぁ」

 冗談のような会話を行いながら、ユーノは自惚れが生んだかすかな幸福感に浸る。
 いつかそれが本当の想いになることを、願いながら。





 自堕落な彼と生真面目な彼女。
 そんな二人が素直になるのは、もう少し先の話………。










 あま、い………? …………………うん、甘い(無理やり)
 というわけで、だらしがないユーノ君とフェイトさんのお話。
 仕事は真面目だけど私生活はだらしがないって言うのは割とメジャーなユーノ君設定。
 そこにフェイトさんの世話好きスキルを追加してみた。
 夜魔斗さん、こんな感じでよろしかったでしょうかー……?





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