「はやく! こっち!」
「う、うん……!」

 ハルナが、ヴィヴィオの手を引いて群衆の中をひたすら逃げ回っている。
 時折ちらりと後ろを振り返り、群衆の中に自分たちを追いかける不審者の姿を確認してまた前を向いて走る。

「まちなさい……!」

 その少女たちを一人の男が追いかけている。頭から黒いマントを被った、やや小柄な男だ。
 その男の手には、バチバチと小さな音を立てる黒いスタンガンが握られている。

「ゲッシー! 次どっち!?」
《群衆の流れのせいで逃げ場がないな……。右だ》

 ハルナの言葉に、ゲシュペンストは身体を明滅させながら答える。
 ゲシュペンストの言葉通り、今の広場にはほとんど逃げ場がなかった。
 そこかしこにはテロリストが銃を手に群衆を追い掛け回し、そして群衆はテロリストに追い掛け回されて混乱し、ひたすら逃げ回っている。
 屋台が破壊されているせいで、通り道がふさがったり、逆に隙間ができていたりと先ほどまでの整然とした祭り風景からは一線を画していた。

「! おい、あの子供!」

 逃げ回るハルナたちを見て、テロリストの一人が声を上げる。
 そんなテロリストの姿を見て、マントの男が大声を上げた。

「金髪の子供を捕まえなさい! 手を引いている子供は殺しても構いません!」
「わわっ!?」

 ハルナが慌てて屋台の影を利用して、さらに逃げ回る。
 マントの男はそんなハルナの姿に、いらだたしそうに舌打ちをした。

「いつまでもちょこまかと……! その子を置いていけばあなたなどどうでもいいのです! 手をお離しなさい!」
「いやだよー! ロリコンは信用するなって、おとーさん言ってたもん!」

 黒マントの言葉に、ハルナは舌を出しながら反論する。
 だが、ヴィヴィオは男の言葉に顔を歪ませる。

「ハルナ、ちゃん!」
「なーに!?」
「手、離して……!」

 幼いながらに、ヴィヴィオは自分が歪な存在だと感じていた。自らの存在が歪んでいると。
 今その歪みが、目の前の優しい少女に襲い掛かろうとしていた。ヴィヴィオはそれを悟った。
 だから、ハルナに手を離すように声をかける。目の前の優しい少女を、歪みに巻き込まないように。

「何言ってんの!」

 だが、ハルナはそんなヴィヴィオの言葉を一蹴する。
 見た目の幼さに似つかわしくない力強さで、さらに強くヴィヴィオの手を引っ張った。

「ヴィヴィオが危ない目に合いそうになってるのに、一人だけ逃げらんないよ! 一緒に逃げるの!」
《生存率で言えば、一人の方が助かろう。だが我らはそれを良しとしない》

 ハルナの胸元で揺れるゲシュペンストも、ハルナを後押しするように明滅を繰り返した。

《案ずるな、ヴィヴィオ。ハルナは、あの程度の者に殺されるほど軟ではない》
「でも……!」

 ゲシュペンストの優しい音声に、涙がこぼれそうになるヴィヴィオ。
 例え、合理的な判断を優先するデバイスの言葉であろうと、絶対はない。
 目の前に広がる怖い結末に怯えるヴィヴィオに、ハルナは力強い笑顔で答えた。

「だいじょーぶ! 絶対、おとーさんが助けに来てくれるもん!」
「……!」

 絶対の信頼。ハルナが、おとーさんと呼ぶ人物へのそれがヴィヴィオに眩く見える。
 そしてその眩さは、驚くほどの力をヴィヴィオに与えてくれた。

「……うん!」

 ヴィヴィオの瞳に力がともる。
 目の前の少女を信じたのは自分だ。なら、ハルナの信じた人を自分も信じよう。
 そう思い、手に抱えたウサギをもう一度抱え直す。
 だが、タイミングが悪かった。
 その時ちょうど、倒れかかった木材を、ハルナが飛び越えた。
 その振動は、ヴィヴィオの全身を震わせ、手の中からウサギを取り落す結果となった。

「「あっ!?」」

 ハルナとヴィヴィオは同時に叫び、慌ててウサギを拾いに行こうとする。
 だが、ウサギはすぐ背後まで迫っていた黒マントの足の下敷きになってしまう。

「あ……!」

 ヴィヴィオの瞳に涙がたまる。
 ハルナは顔に怒りを宿し、キッと黒マントを見上げた。

「ちょっと! ヴィヴィオの人形から足どけてよ!」
「こんなものはもはや必要ありませんよ……。すぐに新しいものを用意してあげましょう!」

 男はようやく少女たちに追いついたことを喜んでいるのか、狂喜に顔を歪ませて手に持ったスタンガンのスイッチを切り替える。
 まだパチパチという小さな音だったそれは、爆竹の響く音を連想させる音へと変化していった。

「ですが、あなたは不要です。消えなさい!」
「っ!」

 男はハルナを捉え、その瞳に怒りを灯し、勢いよくスタンガンを叩きつけた。
 迫り来る衝撃に、ハルナは怯えて瞳をぎゅっと閉じる。
 だが、スタンガンがハルナに接触するより早く、ゲシュペンストが防御用の魔法を発動した。

《Panzer schild》

 美しい緋色で彩られた盾は、ハルナの目の前に大きく展開される。
 そして接触したスタンガンが飛び散らせる電撃からハルナの身を護った。

「ぬぅあ!?」

 シールドに阻まれ、さらに弾かれ、黒マントの男はそのまま勢いよく後ろへと吹き飛ばされた。

「あ……! ゲッシー、ありがとう!」
《気を抜くな。今のお前では、そう何度も使える手ではない》

 自らを守ってくれたデバイスにハルナは礼を言うが、ゲシュペンストの音声は堅い。
 ハルナの年齢は、五つになったかそこらくらいだ。当然リンカーコアも未成熟。
 今のように、大の大人を弾き飛ばすほどの資質を垣間見せることはあるが、肉体の方がそれに追いつかない。

「大丈夫だよ! おとーさんが助けに来てくれるもん!」
「来ませんよ……」

 ハルナは心配性なゲシュペンストに誇るように言うが、黒マントの男はゆっくり立ち上がって否定する。

「む! そんなことないもん!」
「あるんですねぇ、これが」

 ハルナは男の言葉にムッとした表情で反論するが、男は愉快でたまらないという表情でハルナをまっすぐに見据えた。

「あなたのお父さんが何者かは知りませんが、多数の武装したテロリストの中に飛び込んだところで、ハチの巣になっているでしょう」
「そんなことないもん!」

 マントの男の言葉に、怒りの大声を上げるハルナ。
 男は、目の前の少女の幼さゆえの愚直な純粋さに、笑いが止まらないというように声を上げる。

「ハハハハハ! そう心配しなくてもいいですよ! すぐに会わせてあげますよ! いわゆるあの世ですがね!」
「おとーさんは死んだりしないもん! おとーさんは、おとーさんは……!」

 目の前の男の言葉を否定しようと、必死に言葉を絞り出すハルナ。
 ギュッと目を瞑り、ズボンを力の限り握りしめ、全身から言葉を吐き出す。
 男はそんなハルナの姿を見て、にやりと笑い懐に手を突っ込む。

「おとーさんは、現代ベルカ最強の騎士だもん!!」
「ならその主張を抱いて死になさい!」


 それを見て、ヴィヴィオが悲鳴を上げた。

「ハルナちゃん!」
《ハルナ!》

 ゲシュペンストが、二度目の障壁を張るが、先ほどに比べるといささか心もとない。
 同時に、拳銃からマズルフラッシュと薬莢が弾きだされる。
 吐き出された銃弾は、たやすくゲシュペンストが敷いた障壁を突き破り……。

 ガキィン!

 そのすぐ裏に張られていた翡翠の障壁に阻まれた。

「く、次から次へと……!」
「小さな女の子を襲っているんです。この程度は予想してしかるべきでしょう?」

 苛立たしげな男の言葉に、涼しげに反論したのはスーツに身を包んだ男……ユーノ・スクライアだった。

《ユーノ!》
「えっ?」

 ゲシュペンストの言葉に、ギュッと目を瞑っていたハルナがぱちりと目を開く。
 そして目の前にあったスーツの背中と、振り返った柔和な表情の眼鏡の青年を見て、こう叫んだ。

「ユーノおじさん!」

 その言葉を聞いて、ユーノはずっこけた。

「お、おじさんはないんじゃ……」
「だっておとーさんの弟でしょ? ならおじさんだよ!」

 ずれた眼鏡を直しながらの主張は、純真な子供の一言によって却下された。

《確かに血縁関係で言うのであれば、叔父で間違いあるまい》
「だよねー」

 さらにデバイスにまで止めをさされて、ユーノは思わず地面に両手をついた。
 まさか、十九の身空でおじさん扱いされるとは思わなかったのだろう。

「は、はは……。わかってたけど、きつい……」
「あ、あの……」

 がっくりと両手をついたユーノに、遠慮がちにヴィヴィオが声をかけた。
 ユーノはそんなヴィヴィオの姿に気が付き、慌てて立ち上がり、手の土を払い、その頭に手を置いた。

「あ、ああ。ごめんね。でも、もう大丈夫だよ」
「はい……」

 不安げなヴィヴィオを安心させるように、ユーノはマントの男に踏まれていたウサギを転移で取戻し、土を払ってヴィヴィオの手に握らせた。

「あ……!」
「はい。あとで、ちゃんと洗ってあげてね」

 優しい笑顔でそういうユーノに、ヴィヴィオは満面の笑みでこういった。

「ありがとう、ユーノおじさん!」
「がっふぅ」

 ヴィヴィオからの追撃で、ユーノのダメージは加速した。
 その結果、というわけではないのだろうが、ユーノが張った障壁を突破しようとしていたマントの男の苦労が実り、翡翠のシールドはようやく砕け散った。

「! おじさん!」
「ごめん、おじさんって言わないでくれない?」
《あきらめろ》

 ハルナの鋭い指摘にユーノは懇願するが、ゲシュペンストに切り捨てられる。
 ユーノのシールドを破った男は、いつの間にか二人のテロリストを従えていた。

「苦労させてくれますね……! ですが、もう終わりですよ……!」
「苦労すれば、それに見合っただけの達成感が得られると思いますよ?」

 茶化すようにユーノはそういうが、立ち上がったと同時に男の両脇に立ったテロリストたちがアサルトライフルを構える。

「動かないでくださいよ? あなたが障壁を張るより、弾が飛ぶ方が早い……!」
「……違いないですね」

 男の言葉にユーノは肩をすくめる。
 実際、魔法の詠唱より質量兵器の方が攻撃速度は速い。
 むろん、デバイスの補助や余目準備してあるのであればその限りではないが、今回はいささか分が悪いか。
 自らの優位を確信した男は、目の前に立つ男を見てやれやれと肩をすくめた。

「まったく……。あなたたちには呆れさせられますよ。そちらにおられる方がいったいどんなお方なのか……。まったく理解していない!」
「ほう? どういう意味です?」

 ユーノが促すと、男は大仰な手振りで両手を振り上げた。

「その方は、本来であればこんな露店で買い食いをするような身分ではないのです! そう、聖王ヴィヴィオ様は!」

 ヴィヴィオ、と名を呼ばれヴィヴィオがビクンと体を震わせた。
 男の言葉の意味が理解できなかったハルナが、小さく首を傾げる。

「せーおー?」
「古代ベルカにおいてもっとも偉大なる王! その身を持って、ベルカの戦争に終止符を打ったお方です!」

 そんな男に、ユーノは冷静に告げた。

「古代ベルカ戦争の終焉には、いくつもの学説があるはずですが?」
「そんなタブロイド記事にも劣るような話を信じるとは、無限書庫司書長が聞いてあきれる! 真実は常に一つなのですよ!?」

 ユーノの言葉を嘲るように、男は狂気に顔を歪めて叫ぶ。
 なるほど、とユーノは小さく頷いた。

「このテロを発案したのはあなたですか」
「ええ、そうですとも! 今の聖王教会は腐りきっている……。官憲にその誇りを売り渡すほどに!」

 テロリストは、狂喜を憤慨へと変え、両手を振り乱す。

「聖王教会の上位騎士たちは管理局との癒着を隠そうともしない! ここの責任者のカリムが特に良い例だ……! 騎士を名乗りながら、管理局の理事となるなど! 恥辱の極み!」
「聖王教会が生き残るには、致し方ないと思いますが?」
「はっ! 管理局に首を垂れるくらいなら、潔く死ねばよいのです!」

 男の言葉に、ハルナが反論しようとする。
 だが、それをユーノは押し止めた。
 ハルナに男の背後を指差してやりながら、ユーノは口を開いた。

「まあ、誇りを大事にされるのは大切なことですが、背後関係をおろそかにしてはいけないと思いますよ?」
「なに?」

 突然のユーノの忠告。訝しむ男。
 そんな男の顏が、縦につぶれる。

「ごぴゅっ!?」
「「!?」」

 両脇の男たちが、突然の出来事に混乱するが、同時にお互いの頭部をぶつけ合った。
 むろん、自らぶつけたわけではない。いつの間にか背後に立っていた一人の男の仕業だ。

「おとーさん!」
「ハルナー。元気にしてたかー?」

 ハルナの嬉しそうな声に、マントの男のぐりぐりと踏みつけながら隻眼の男――ハルスがやはり嬉しそうに答えた。
 両手に掴んだテロリストたちの頭を、ゴミでも放るように捨てながらハルナの近くへと歩み寄っていった。

「おとーさん! あたし、ヴィヴィオを助けたんだよ!」
「ほー、そうかー」

 ハルナが誇らしげに胸を張り、ハルスはそんなハルナの頭を撫でてやった。
 そしてハルスはヴィヴィオの方に振り向き、にっこりと笑って見せた。

「お前がヴィヴィオか?」
「あ、は、はい……」

 ハルスの風貌といましがた見せた凶行に怯えるヴィヴィオ。
 ハルスはそんなヴィヴィオの様子には構わず、笑ったまま続けた。

「えらいじゃねぇか。こんな状況で泣かねぇなんてな」
「え?」
「とーぜんだもん! ヴィヴィオはあたしの友達だから!」

 泣かなかったことを褒められ、さらにハルナには友達と呼ばれ、ヴィヴィオは戸惑う。
 そんなヴィヴィオの頭をユーノはゆっくりと撫でた。

「あ……。ユーノ、さん?」
「頑張ったね、ヴィヴィオ」

 ユーノの暖かな言葉に、さっきまであった歪が消え去ったことを悟る。
 途端、涙腺から溜まっていた涙が零れ落ちていく。

「あ……ありがとう、ございます……」
「どういたしまして」

 そんなヴィヴィオの様子を見て、ユーノは柔らかく微笑み。

 ズドォン!

 突然の乱入者の存在に顔をしかめる。

「なんなんだ、突然」

 ユーノが顔を上げると、そこには複数の戦車がこちらに向かって砲塔を向けている光景が映った。
 そのあまりにも威圧的な光景に、さすがにユーノは冷や汗を流す。

「……子供一人迎えに来るのに、やりすぎじゃないかな?」
「まったくだ。ロリコンは死滅すりゃいいのにな」

 対し、ハルスに動揺は見られない。
 呆れたようにため息をつき、ハルナの首元からゲシュペンストを取り上げた。

「ハルナ。ちょっと掃除してくるから、ユーノおじさんのとこ行ってな」
「うん! わかった!」

 ハルナは嬉しそうに頷いて、ユーノの足元まで駆けていく。
 ハルスはゲシュペンストを振り回しながら、ユーノを見てにやりと笑って見せた。

「つーわけで、ハルナをよろしくな?」
「ああ、それはいいけど……。おじさんの仕込みは兄さんなの?」
「なかなか一族に帰ってこねぇお前が悪い」

 半目で抗議するユーノに、中指を立てて舌を出してみせつつ、ハルスは戦車群に向き直った。

「いけるなゲッシー?」
《無論》

 己の相棒の威勢のいい返事に笑みを深めつつ、ハルスはバリアジャケットを身に付ける。
 上はタンクトップのような装甲ほぼ一枚きりに見えるというのに、下半身は鋼鉄製のレガースにやはり装甲で作られたスカート状の防御装甲が展開されている。
 重圧な下半身装甲に対し、上半身は無防備といってもいい装甲の薄さ。ある意味異様といってもいい姿だ。
 ハルスが手に持ったデバイスもまた、常軌を逸していた。
 肉厚な斧を持つハルバート型アームドデバイス。そこまではよい。
 だが、斧の反対側に拵えられたカートリッジシステムは、通常の数倍に比する大きさ。込められた魔力量がどれほどのものなのか、想像もつかない。
 そして何より異様たら締めているのは、槍の代わりに槍斧の先端に装着された鋼鉄の杭、パイルバンカー。
 元来は岩石掘削用の装備を備えたその姿は、異形と呼んでも差し支えない物だった。

「さーて、おっぱじめますかぁ?」

 ハルスはにやりと笑って、その異様な槍斧を片手でぐるりと振り回す。
 グルンと砲塔を回転させる、正面の戦車に銀杭を向け、ハルスは己のデバイスに銘ずる。

「貫けぇ!」
《Haufen bunker》

 主のコマンドに応じ、ゲシュペンストはカートリッジを排出し、銀杭を音速で展開する。
 途端、目の前の戦車の砲塔が放たれた衝撃に貫かれ剥がされ、戦車の車体ごと吹き飛ぶ。
 解き放たれた衝撃はそれだけでは済まさず、両脇の戦車たち、さらに周辺屋台まで巻き込んで破壊跡をまき散らす。
 すべては銀杭が動いた、ほんの数瞬の出来事。
 暴虐ともいえる破壊は、あとには何も残さなかった。
 そんな光景を見て、ハルスはきょとんと眼を瞬かせ、己の相棒を片手に後ろ頭を掻いた。

「っちゃ、調整ミスったか?」
《……まあ、マグナムカートリッジに内包されていた魔力をすべて、衝撃波に変換してしまえばこの程度にはなるだろう》

 ゲシュペンスト自身も、この威力は想定外だったらしい。

「……まあ、巻き込まれた人はいなかったし、結果オーライってことで」
《うむ》

 適当な主従である。
 ごまかすようにうんうんうなずいているハルスのもとへと、衝撃波を撒いた時の轟音につられてテロリストたちが寄ってくる。

「撃てー!」

 隊長らしい人物の指示と同時に、テロリストたちの射撃が始まる。
 同時に、ゲシュペンストがカートリッジをロード。ハルスの全身を紅色の魔力光が包み込んだ。

「飛んで火にいるなんとやら……だな?」
《夏でもないのに元気なことだ》
「ばかな……!?」

 ハルスを包み込む魔力光。それによってすべての銃弾が弾き飛ばされる。
 通常であればありえない光景に絶句するテロリストたち。
 そんな彼らの姿を見て、ハルスは舌なめずりをした。

「さあ……。人の娘の思い出をぶち壊してくれた礼だ……。せいぜい楽しませろやぁ!!」

 獣の如き咆哮と同時に、ハルスは銃を乱射するテロリストたちの群れへと飛び込んでいった。
 そんな光景に瞳を輝かせながら見入るハルナに、ヴィヴィオがおっかなびっくり声をかけた。

「は、ハルナちゃんのお父さん、すごいんだね……」
「うん! なんたって、現代ベルカ最強の騎士だからね!」
「あくまでそのうちの一人だけどね。……にしたって凄まじいなぁ」

 武装したテロリストたち。さらにはテロリストたちが救援で呼び寄せた戦車までもろとも相手にしながらも、台風か何かの様に蹴散らしていくハルスの姿を目の当たりにし、ユーノは呆れたようにつぶやいた。

「レアスキル、魔力硬化……。本質は守りの能力だけど、鋼を弾く装甲は転じて、鋼を引き裂く刃になるか」

 ゲシュペンストが展開した大型魔力刃が紙のように戦車の装甲を引き裂くさまを見つつ、ユーノは感嘆の吐息を漏らす。通常の魔力光と違い、水晶にも似た輝きを持ったゲシュペンストの刃は、ただそれだけでは終わらせず、周囲のテロリストすらもろとも薙ぎ払う。一応手加減はしているのか、テロリストたちの方は無事だが。
 もちろん、ただの魔力刃でも同じことは可能だろう。ただ、必要な出力はけた外れの物になるだろう。
 超過圧縮による魔力の硬化現象を自在に操る古代ベルカ式騎士……。それが現在のハルスの称号らしい。
 うっとうしそうに語るハルスではあったが、そうしてできた縁が今回のデバイス品評会につながったのだから、内心では満更でもないのだろう。

「うちの副司書長とも、いい勝負しそうだなー」

 のん気に呟きつつ、ユーノは余波を防ぐために張った障壁の中で、ハルスが暴れ終わるのを待った。
 仲間たちに救援を求められたテロリストが続々と集まっているので、なかなか終わりそうにはなかったが。



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